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医療はどこを目指してその歩みを進めているのだろう? 多くの人は、近い将来の医療について、現代医療のハイテクノロジーをさらに色濃くした姿を想像することだろう。より精密な診断機器、遠隔手術をするロボット、血管内で働く極小ナノ・ロボット、人工臓器や培養臓器、劇的な効果をあげる医薬品の開発、そして遺伝子治療。もちろんそれらは望ましい進歩だが、どうやら将来の医療は、ハイテクノロジーで埋め尽くされたものでもなさそうである。
ニューヨークのマンハッタン5番街に、医療の未来のひとつをうかがわせるメディカル・センターがある。その施設は、中国の風水にのっとって施設のデザインがなされている。患者の待合室は、風水で「活力」の方角とされる西側に位置し、診察室や治療室はヒーリング・エネルギーが流れ込むという北側に、そして産婦人科は「新しいことの始まり」を意味する東側にすえられている。施設の建材やインテリアは、有害物質を厳しく排して全てナチュラル素材やリサイクル素材が用いられ、院内は「ポジティブなエネルギーが流れるように」と、さまざまな工夫が試みられている。
ここで提供される医療は現代医学にとどまらない。医師たちは通常の治療のほか、しばしば患者に<音楽>を処方し、<瞑想>を処方する。あるいは患者のツボにハリを刺し、ヒーリングハーブを焚きしめ、患者が自分の<意識>の力で血圧を下げるテクニックを伝授する。また医師たちが癒しの本質を学ぶための研修旅行の行き先は、あるときはアメリカ先住民族のシャーマンのもとだったという。
しかしここは変わり者の医師が運営する、いかがわしい診療所ではない。医学界の最高峰、ハーバード大学医学部の教育提携病院、「ベスイスラエル・メディカルセンター」が創設した、最先端の医療機関なのである。この通称「ベスイスラエル・ヘルス&ヒーリングセンター」が目指すのは、現代医学と相補・代替医療を融合させた<統合医療>の確立である。
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現在、とくに先進諸国の医学界において、この統合医療を推進する流れが、医師と患者の双方を取り込んで大きなうねりとなっている。「さまざまな治療が奇跡的治癒を導き得ますが、そこに存在する共通の因子は、<愛>としか呼びようのない、善なる性質をもった微細なエネルギーです」。「病は魂の声が具象化されたものです。そして身体症状はそれがもっともわかりやすい形で表現されたものにすぎません。ですから真の癒しをもたらすためには、治療者は患者の体・心・魂を包括的に扱う必要があります」。
統合医療を推進する医師たちは、癒しの極意を問われて、愛を語り、魂を語る。最先端の知識と技術を磨き、科学者として生命を見つめ続けてきたエリート医師の彼らは、いったいどのような意識の変革を経てこの道を歩み始めたのだろう? その答えはおのおの異なっているが、現代医学の医師として苦闘してきた結果にたどりついた彼らにとっての「真実」が、その信念を支えていることは共通している。
「ベスイスラエル・ヘルス&ヒーリングセンター」で治療を受けたマヌエラは、乳がん手術後のケアと、再発防止のために訪れた。母親を乳がんで亡くした20年後、姉が子宮頸がんと診断されたのをきっかけに自分も検診を受けると、ごく初期の乳がんであることが発覚し、マヌエラは早々に外科手術を受けたのだった。術後の状態は良好だったものの、「健康状態を根本から力づけるために」、このセンターにやってきた。
「手術を受けたのはごく<普通の>病院だったから、術後の定期的な検査はするんだけれど、それ以上のことはなにもしなかった。でも、ただ再発を待っているだけのような状況に耐えられなくて。わたしは自分で再発を予防する努力をしたかったのよ」。
ここではひとりひとりの患者について医師たちがチームを組んで討議をし、最適な治療法を決定するが、中国医学に共感していたマヌエラのリクエストもあって、治療は現代医学的な経過観察のもと、針治療と生薬の投与を中心に、ある種の心理療法を組み合わせておこなわれた。
「結果的に治療の対象になったのは、身体的なエネルギーの質の向上と循環の促進、それと『抑圧していた母親への憎しみ』と、『幼い娘を残して死ぬかもしれないという恐怖』、『職場の最悪の人間関係から受けるストレス』、『喫煙の習慣』。そのすべてが改善されて、わたしは自分が生まれ変わったみたいに感じてるの。どんどん健康になっていくプロセスを楽しんでいるのよ」。
これらの治療が、乳がんの再発防止にどれだけ貢献しているのか判断することは難しい。だが、マヌエラはその治療内容と結果に満足していると語った。心身の基礎的な力がついて、意識も向上し、自分が成長することができたのを心の深みから実感しているからだという。
「たとえ再発したとしても、今のわたしはその事実を、過去のわたしとは違った受け取り方をすると思うわ。絶望せずに向き合っていける自信があるの。これまでの治療で、そんな自分になることができたのよ」。
たんに身体的症状を消失させるのではなく、患者自身の全体が癒えることを治療のゴールに据えている全人的医療(ホリスティック・ヒーリング)を、統合医療は目指している。マヌエラが得たこの変化こそが、そのひとつの成果を現しているのかもしれない。(了)
※この医療施設の正式名称はThe Continuum Center for Health & Healingです。
医師が開く、命の寺子屋
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