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日本のコミュニティアート

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井野ゆりえ
day
2003-08-10
 

 今年の6月16日(月)から22日(日)、板橋区の廃段ボール工場でコミュニティーアートの展覧会が行われた。「東京ポケットプロジェクトvol.1 in 板橋」である。この東京ポケットプロジェクトは慶応大学環境情報学部の栗林賢さんを中心に企画・運営された参加型アートイベントである。その趣旨は、東京にあるポケット空間-現在使われておらず何の価値も生み出していない空間-人々から意識されない空間-をアーティストの手によってその価値を再発見し、その空間に眠る「まちの記憶や魅力」を引き出すことだ。プロジェクトを通してアーティストは社会と関わり、自己表現する機会を得る。また参加した市民は自己表現方法を触発されたり、ポケット空間の魅力を再発見することでまちを好きになったりして、地域活性化に結びつくというのが狙いである。

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 今回、浮間船渡駅近くの廃段ボール工場で開催された展覧会は、音と光を組み合わせた体験型イベントになっていた。観客はライトを片手に工場の中に入る。すると屋根のように白い布が張られており、客はその下をくぐりながら進んでいく。かつて段ボールを作っていただろう機械の並びに、発光ダイオードの赤い光が多数浮かぶ。ライトでその光を照らすとセンサーが反応して、その工場の音が流れるという仕組みだ。また工場奥の2階ロフト部分にあがると、観客たちのライトが上の布に浮かびあがり、客の動線がそのまま光のアートになる。客の反応は概ね好評で、普段入る機会のなかった廃工場がアート空間に変わったことに驚き、その空間を楽しんだ人が多かったようだ。

 筆者はこのイベントに昼と夜の2回訪れたが、時間によってイベントの印象がずいぶん変化することに驚いた。工場の屋根には大きな穴が空いているため、昼間は会場内が明るい。そのためライトを持って場内を歩きまわる意味が半減してしまうのだ。特にロフト部分から見られる光のアートは、夕方以降でないと用をなさない。主催者側にとっても屋根の穴は予想外だったらしく、暗くなってからの鑑賞を薦めていた。とはいえ、昼間の展覧会には別の魅力もあった。工場の細部がよく見えるので、探検気分で工場を見て回れるのである。ただ昼と夜のどちらがよかったかと聞かれれば、やはり夜のほうだ。夜になると、企画者の意図どおりに光と音が組み合わさったアート空間が出来上がっていたと思う。アートに参加しているという意識を客が感じられるのも夜のほうだろう。

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 このイベントに関連して、コミュニティアートに関するシンポジウムなども開かれた。板橋まちづくりセンターの協力もあって、地域の人々がコミュニティアートに親しむ良い機会になったようだ。地元の人々が普段目にしても気にも留めず、放置されていた廃段ボール工場。実は今回の展覧会のあと、廃工場は立て壊すことが決定されている。来場者のなかには、工場の取り壊しを惜しむ声も聞かれた。筆者も、イベントを見たあとは同じように感じた。今までにないアート空間という形で工場が再利用された結果、人々の意識のなかでその価値が再創造された結果かもしれない。そう考えると、東京ポケットプロジェクトの「ポケット空間の価値の再創造」は一定の成果を挙げたといえよう。

 だがもちろん問題点もある。外部への広報活動が十分でなかったため、地元住民やプロジェクト関係者などごく一部の人しかイベントを知ることが出来なかったことなどだ。また日本ではコミュニティーアートの認知が低いため、なかなか考えが理解されず、借りられる建物探しや資金集めにも苦労したと聞いた。コミュニティーアートに対する理解を広げていくことが、一番の課題かもしれない。

 東京ポケットプロジェクトの第二弾は、奥多摩の廃村「峰」で行われる予定だ。まだどのような形で行うかは分かっていないが、空間の大きさを考えても今回とは全く違う大規模な表現形態になるだろう。峰の方では、地域振興を切望していることもあり、東京ポケットプロジェクトに大きな関心と期待を寄せているという。この第二弾が成功すれば、コミュニティーアートが地域振興策として各地で関心が高まる可能性もある。東京ポケットプロジェクトの今後に期待したい。


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