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ベルリンのオルタナティブ映画館『アルセナル』 

文化・東西南北 Vol.6 

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たかもとみさこ ドイツ・ベルリン
day
2003-02-22
 

  このところ、ベルリンのスクワットにおける、スペース利用について2度ほど連載したが、この街には、スクワット以外にも、文化施設としてのスペースがあふれている。その中でも今回は、私のお気に入りである映画館「アルセナル」についてお話したい。

 この映画館は、市からのバックアップを受けながら経営をしており、日本でいえばミニ・シアターで公開されるような映画をたくさん見せてくれる。アルセナル自体が保持するフィルムの数もたいしたものらしく、数年前に経済補助が削減され、存続危機に追いやられたときも、そのフィルムの処理をどうするのか、という問題が出たほどだ。結局は、この映画館を愛する人々の援助によって、今もまだベルリンのど真ん中に、二つの映画場を持って存在している。アルセナルは、毎月のプログラムに、必ずテーマを設けており、毎年繰り返して行われるものに、ユダヤ映画と日本映画がある。それ以外にも、大学の映像学科がゼミのためにフィルムをみせたり、監督や批評家が招待されて、ディスカッションが行われる。

多角的プロジェクトのあり方

 先月私が見に行ったのは、南アフリカについての芸術家たちによる上映会であった。このプロジェクトは、いろいろな分野の芸術家が参加しているので、共通のテーマでもって制作された作品や報告書が一般に公開される機会となっていた。つまり同じ時期に、ある地区のギャラリーでは、アフリカについての写真展が行われたり、また隣の地区では、エイズや人種差別をテーマにした研究発表が催される、という具合だ。仕事場の同僚が、趣味でカメラを習っている学校の先生もそのプロジェクトにかかわっているとうので、私たちは一緒に出かけることにした。なんと、上映されたのは、今南アフリカで大人気のTVシリーズ、ソープオペラ(注:通俗的連続ドラマ)『Yizo Yizo』である。

南アフリカのソープ・オペラと社会問題

 ヨハネスブルク近郊の高校生が話しの中心で、出演者は全員黒人。この年頃の青少年共通のテーマである、セックス、恋愛、親子問題、暴力がその話の中心だ。話される言葉が、英語と現地語の混合のため、アルセナルの公開では、英語の字幕付となった。その夜私たちがみたのは、第2弾目のシリーズで、飛ばし飛ばしで計3話、3時間かけての上映だった。

 第一弾の上映もみた同僚によると、第二弾ははるかにソフィスティケートされているらしく、出てくる映像も、赤・黄・ブルーとポップな配色がされている。皆決して裕福とは言えない生活状況なのだが、しなびた感じはなく、掘っ立て小屋のようなアパートには、グラフィックが施されているといった具合だ。学校の休み時間には、子供たちは、DJのように、皆で突然ラップを披露する。実際現地の生活でそんなことがあるのかどうか知らないが、フィルムの中の子供たちは、かなり「クール」だ。

 日本のソープ・オペラと比べると、テーマ的には共通するのだが、何しろこういった番組がご法度とされてきた南アフリカでは、かなりのセンセーションを巻き起こしたらしい。かなり暴力的、性的なシーンの描写もあるので、公開禁止運動があったくらいだ。しかし、出演者と同じ年頃の子供たちは、放映日になると、テレビの前に噛り付き、視聴率は空前絶後のものとなった。それは、非現実的で、刺激的な映像が、彼らを魅了したのではない。南アフリカの子供たちの日常は、まさにそのTV番組そのものであるというのだ。にもかかわらず、こうしたテーマについて話すことは今までタブーとされてきた。自分の問題について直接話し合うことのできない子供たちは、TVの出演者の出来事に置き換えて話し合うことで、このタブーを破りつつあるらしい。(当プロジェクトドイツ人参加者の講演話より)。

ポップ・カルチャーの可能性:文化問題との関連付け

 実際良く見てみると、ただのポップなフィルムではない。授業シーンでは、さりげなくアパルトヘイトに関する話がでてくるし、セクシャル・ハラスメントの犠牲となるのは、必ず女性で、その背景には、男性権力主義がきちんと描かれている。性教育として、エイズのテーマも扱われている。イマドキな感覚を導入しつつも、現地の文化に根付いた社会問題を扱っているのだ。日本のポップ・カルチャー・シーンの、アメリカ文化中心主義志向が嘆かれて久しいが、日本のソープに、この南アフリカのTV番組ほど、文化や社会を捉えている作品がどれほどあるだろう。これら辺境とされている文化のソープ・オペラを輸入することで、日本のポップ・カルチャーにも、これからの可能性が現れるのではないか、そんなことを映画館からの凍える帰り道、私は考えた。


ドイツの裸事情II. 原始への帰還とテクノ・クラブ
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