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個人が創った図書館 ~アジア図書館~
大阪市東淀川区 |
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| 2008-12-14 |
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アジア図書館 ~異文化理解のために~
大阪市東淀川区の3階建ての灰色の鉄骨ビルに入ると、1階の階段から3階までが、本で埋め尽くされていた。床から天井までぎっしり詰まった本棚が、人の歩ける幅を残して、迷路の壁のように隙間に立てられている。本棚の間に、きれいに片付けられた小部屋や、テーブルの上に本が積み重なっている小部屋がある。
テーブルに積み上げられた本の隙間から、埋もれるように作業を続ける初老のボランティアの男性が見える。本を整理する書誌カード作りは、すべてボランティアの手で行われている。訪問した日も、たくさんのボランティアが、一人ずつ静かに本と向き合って書誌カード作りをしていた。
アジア図書館は、欧米の方ばかりを見てきた日本のあり方を反省し、多様なアジア文化への理解を深めること、またかつて帝国日本が侵略した国々との対話のプラットフォームを目指して、1981年に設立された。行政ではなく、事務局長の坂口勝春氏を中心とした市民グループが設立した民間の図書館である。
蔵書は、約26万冊。アジア各地域に関する本と、アジアを中心に20言語以上の書籍を所有する日本でも有数のアジアコレクションである。その蔵書は、ほとんどが寄贈された古本だ。行政からの補助も受けず、利用する市民の会費によって支えられ運営している。個人でも図書館を作ることができる。そのことを彼らが身をもって証明している。
アジア図書館は、単に本を借りるだけの場所ではなく、主にアジア圏を中心とする異文化理解を目的とする総合的施設である。夕方になると、アジア各国語講座が開かれ、その数は70種、学習者の数は200人に上る。アジアの人口は30億人を超えるが、大学で学べる言語は、未だにヨーロッパ各国語が中心で、アジアの言語を学べる場所は非常に貴重だ。利用者には社会人が多いそうだ。さらに、アジアを囲む会というアジアの文化芸能を学ぶイベントを、これまで400回以上開催してきた。また、アジア音楽祭のような大きなイベントも開催し、ネットワークを広げている。

面白い仕組みが、アジア各国の図書館との提携だ。寄贈された書籍の中には、複数冊のものがある。その余部をまとめて海外の図書館に寄贈し、代わりに海外の書籍を寄贈される仕組みだ。そうやってアジア図書館には、海外の貴重な資料が集まる仕組みができている。中国の大連、インドのバンガロール、ボラなど、海外21箇所とのネットワークを構築している。
最初はガレージから
今ではビル一杯を埋め尽くすこの図書館も、最初は小さなガレージから始めたものだ。10年勤めた会社を辞めた坂口さんが、こつこつと本を増やし、仲間を増やし、会員を増やし、25年間かけて、ここまで来た。そして今や、新しいアジア図書館ビルの建設を目指して、10億円を目指す募金活動を行っているのだ。
坂口さんは、とにかく話し出すと止まらない勢いで、あっと言う間に時間が経ってしまった。
「本は残さなければいけない」と彼は言う。「本物の言葉」が詰まっている本は人を感動させる。本物とは、「自分自身との戦いに身を削っているか」「崖っぷちの意識を持っているか」だと言う。
坂口さんは、「ここを、本物を育てる場所にしたい」とも言っていた。最近、「自分探し」の「ふわふわした」若い人が増えたと感じると言う。坂口さんの口調には、少し人を問うところがある。「お前はどうなのか」と。このように問うてくれる人が、最近少なくなった、と少し懐かしく感じた。でも、図書館建設について話す坂口さんは、子供のように楽しそうだ。
蔵書は、今や図書館に収まりきらない程に増えており、倉庫に保管してある。新アジア図書館の建設が望まれる。既に数千万円は集まったそうだが、まだまだ目標地点は遠い。企業の支援も必要だろう。また、海外でのネットワークが広がっていることを考えると、書誌カードをITに置き換えることで、さらにネットワークの可能性が広がるのではないかと感じた。その辺りでも、企業の協力の余地がありそうに思った。
「自分の地域には図書館がない、行政が何もしてくれない」とお嘆きの人には、ぜひ一度訪問して、ショックを感じて欲しい。アジア図書館を見れば、行政に頼らなくても、個人の熱意と工夫で実現できることがあると分る。「一人では絶対できない。しかし、一人が動かないと始まらない。」と坂口さんは言う。まずは、一人でも旗を持って走り出すこと。そこからしか始まらない。
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