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藤沢市立S小学校日本語教室

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せきじえり 東京
day
2004-11-14
 

外国人児童のための日本語教室

 スペイン語、ポルトガル語、タイ語、ベトナム語、中国語が飛び交う教室。一昔前の小学校には考えられないような場所がS小学校には存在する。小田急線に乗って、相模大野から片瀬江ノ島方向に伸びる路線に乗るとさまざまな言葉を耳にすることができる。それはまさしく多国籍ライン。移民国家のイギリスやオランダでは普通の状況なのかもしれないが、「単一民族・単一言語国家」神話が根強く存在する日本ではまだ知られざる異空間だろう。

 神奈川県藤沢市は北部に大企業の下請工場が立ち並んでいる。1990年から日系人の日本での就労が合法化されて家族での移住が認められたこともあり、特にブラジル、ペルー、アルゼンチンなど南米から住民が多い。藤沢市立S小学校には約50名の外国人児童が在籍し、そのうち30名が日本語教室という特設クラスに通室している。

 時間数は個々の日本語や学力能力によって異なるが、週2~6時間日本語教室で専属の教員と一緒に日本語、算数や国語といった教科の勉強するのである。このような教室(国際教室や日本語教室という名称)が特設されている学校は市内にほか6つある。

 このS小学校日本語教室で学習補助のボランティアを始めてはや2年。彼らの成長を目の前でみてきて思うことは、社会のひずみがこういうミクロな点に表れるということ。日本に「デカセギ」にきた彼らの親たちは、明確な将来のビジョンを持たず帰国のタイミングをつかめないまま、ただなんとなく5年、7年と滞在を長引かせる。そして子どもの将来はひとえにその親にゆだねられている。

 日本で生まれて日本で育ったエリコ(仮名)は、家庭での言語はスペイン語。幼稚園に通っていないため、日本社会と本格的に接点を持ったのはS小学校に入ってからである。1年生で入学してきたときには簡単な挨拶以外ほとんど日本語を理解せず、"あいうえお"から学んだ。今は4年生になって日常会話レベルの日本語はほとんど問題ないものの、学習言語としての日本語を習得しきれずにいる。彼女の作文から抜粋:「アニメをみてげらげら泣きました」。

 応用言語学でよくいわれるのは、第1言語が確立しないと、第2言語、第3言語の習得が困難であるということである。つまり、第1言語には臨界期(言葉を習得できるデッドライン)が存在するのだ。1つの言語で、共通基礎部分が確立させていないと、俗にいう「セミリンガル」状態が生まれてしまう。

 ディズニーが好きといっていたので、ある日エリコのためにスペイン語版のディズニー絵本「リトルマーメード」を買っていった。しばらく絵本を眺めてからエリコが言った言葉を忘れることができない。

 「これ何語?」

 そしてエリコはカタカナでルビをふってほしいと頼みにきた。第1言語、母語であるスペイン語は聞いたり話したりすることはできるけれど、書いたり読んだりはできないという現実。今まで抱いていた「母語」という概念が崩れ去った瞬間、思わず言葉を失った。

日本語だけではない日本語教室の機能

 日本語教室で、日本語や教科の学習補助を行っていると矛盾を感じずにはいられない。S小学校のように、「日本語教室」がある場合はまだ幸せな方である。なぜならそこは彼らにとって学習の場だけではなく、悩み相談場所、心の居場所としての機能も果たすから。しかし、たとえ日本語教室で受け入れられたとしても、一歩外を出て一般教室に戻れば彼らは「異分子」であり、地域社会では「外国人」扱いされる。

 「多文化共生」「国際理解」という言葉が日本の義務教育でも聞かれるようになったものの、多様性の中に意義を見出して地域レベルで発展させようとさせる動きはまだ少ない。川崎市、太田市、浜松市などで、地域の公的機関、団体、学校が一体となって取り組んでいる例があるが、それぞれの地域性・土着性を生かしながら独自の政策を見出していく必要があるだろう。それと同時に全国レベルの改革が求められる。たとえば、外国人児童生徒の増加を考慮した教員養成プログラムの開発、英語以外の外国語学習の推進などである。

 「日本は多文化社会だと思いますか?」

 この質問に何人の人が自信を持って「はい」と答えられるだろう。アイヌや琉球の歴史を考えれば、日本だって昔から「多民族・多言語国家」であったにも関わらず、今になってようやく多文化共生という認識が出てきた。しかしそれは日本も色々な文化も含めた「多文化」ではなく日本とその他の文化を差別化した「他文化」にはなっていないだろうか。

 全国レベル(せめて市町村レベル)の政策が打ち出されない限り、足元からの活動を続けていくしかない。そう思って今日もS小学校へ行く。


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