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団地の日本語教室<厚木日本語クラス>

団地の集会所で日本語を学ぶ

leader from from
玉村麦太郎
day
2004-10-05
 

外国人の多い団地の日本語教室

 神奈川県厚木市の県営吾妻団地。

 小田急線本厚木駅からクルマでほんの10分ほどのところにある、ごく普通の団地である。だが、中低層住宅が10棟以上も並ぶありふれた景色には、ひとつだけ、ほかの団地とは違ったところがある。

 外国人の姿をよく見かけるのだ。泣きじゃくる外国人の子供たちや、その手を引いて歩く母親。その姿が、まるっきり風景に溶け込んでいる。それもそのはず、この団地の住民の2割が外国人なのだ。

 実は、団地の集会所では、毎週土曜日、外国人住民を対象とした日本語教室が開かれている。その「厚木日本語クラス」が開かれたのは、いまから5年前のことだ。

***


 難民のための定住促進センターがあった大和市は、インドシナ難民にとって、いわば故郷のような町となっている。インドネシア難民の半数以上が、大和市周辺をメインにした神奈川県一帯に住んでいるのも、そのあたりの事情が大きいらしい。そこで当然のように、難民関連イベントの多くが大和市で行われる。

 99年4月、大和市でカンボジアの新年のお祭りが開かれていたときのこと。後に「厚木日本語クラス」のリーダーとなる田中よし子さんが教会に入ろうとすると、入り口で募金を募る女性がいた。女性は吾妻団地に住む元カンボジア人。すでに日本に帰化していたが、インドシナ難民のためになんとかしたいと、常日頃から思っていた。

 いろいろ話をしているうちに、田中さんが日本語教師であることを知った女性は、その場で「ぜひ団地の外国人たちに教えてほしい」と、田中さんに申し出た。「メンバーは私が集めますから」。

 そして翌5月、吾妻団地の集会所でのレッスンがはじまった。

 厚木市には日本語を教えるボランティア団体が5つあるが、団地の集会所に出向いて教えているのはこの「厚木日本語クラス」だけだ。

厚木日本語クラス

 9月はじめの土曜日、「厚木日本語クラス」を訪れた。

 集会所には、7人のボランティアのほか、3人のベトナム人、1人のカンボジア人、3人の韓国人。集会所の机を使って、初級コース、中級コース、上級コースと、3つの島が作られる。

 レッスンはボランティアとほぼマンツーマン。「ダイレクトメソッド」といって、日本語だけを使って手探りでひとつひとつ覚えていく。

 20代半ばのベトナム人主婦は、まだ日本語が少したどたどしいようす。

 「なかなか覚えられない。周りがベトナム人ばかりだから…」

 「外国人ばかりの職場に勤め、自宅と会社を往復する毎日です。」19歳のカンボジア男性は、眼を輝かせながら夢を語る。 

 「日本語がしゃべれないとアルバイトです。でも、しゃべれれば正社員になれます。ぼくはパソコンを扱う仕事に就きたいのです。」

 彼らは難民第一世代ではなく「呼び寄せ家族」である。

 なんとしてでも日本語を覚えなければ生活できなかった第一世代からみると「本当に時代は変わった」ということらしいが、今では日本語なしでも充分やっていける。職場でも、みんなが母国語を話すからだ。ましてや過酷な労働の合間に語学の勉強なんて冗談じゃない、と考えるのがふつうだろう。

 だから「厚木日本語クラス」の受講生たちは、きっと、外国人住民のなかでもとびきり前向きな人たちであるに違いない。

 「日本語であいさつができるだけでもいいのです」とボランティアのお母さんたち。日本語を知らないということは、日本人とコミュニケーションがとれないということだ。当然、地元住民との誤解や軋轢も生じやすくなる。

***


 かつては「外国人が夜遅く外で談笑しているのがうるさい」「自転車が壊される」といった噂が団地では絶えなかった。

 だが今では、「厚木日本語クラス」で勉強している外国人たちが、団地のお祭りでおみこしを担いでいる。その姿を見たときは「とてもうれしかった」と、田中さんはいう。外国人住民に対する地元の誤解も自然に解けていく。

 共通語があるということが、コミュニケーションの大前提だ。

 ところが、気軽に日本語が学べる場所は次々となくなっている。
 すでに大和定住促進センターが閉所され、来年度には国際救援センターもなくなる。その穴を、かろうじて埋めているのがボランティア団体なのである。

 静岡文化芸術大が、外国人が多いある団地を対象に行った調査によると、外国人住民の半数近くが「(日本人と)少し付き合いたい」、25%が「もっと積極的にかかわりたい」と考えるいっぽうで、日本人の住民の7割が「(外国人住民と)関わりたくない」と考えていたそうだ。今後、少子化が進むと、外国人と地元との共棲は、ますます大きな課題となっていくことだろう。

 その際、手を差し出すのは必ずしも「日本人から」でなくていい。「厚木日本語クラス」の例は、そのように語っているように思える。


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