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無いものねだりな美意識たち
ドイツの中でもベルリンは、国際色豊かな町だ。統一後さらに、アフリカやアジアからの移民が増え、町のあちらこちらにエスニック系のお店が並ぶ。最近私の住む辺りでも、アフリカ人の住民が多くなり、近くにアフロショップなるものができた。ショーウィンドウには、髪の毛を直毛にしたり、ブロンドにしたりするためのコスメが並び、店のポスターでは、黒人女性が、ストレートヘアーで笑いかけている。人というのは無いものねだりの性質があって、白人たちはこぞって太陽に身をさらし、肌が真っ赤になるのも構わず日焼けをしたり、日焼けサロンに通ったりする一方で、アフロショップではホワイトニングのための化粧品が飛ぶように売れるのだ。
ベルリンでも一番トルコ人人口の高いクロイツベルク地区では、トルコ人の経営する食品店が並び、日照時間の短い北ヨーロッパでは手に入りにくいオリエンタルな新鮮野菜が売られている。トルコ人が経営する床屋に行けば-イスラム教徒の女性は髪の毛を伸ばして、スカーフで隠しているので、その多くはやはり男性専用だが-さっぱりと刈上げスタイルに仕上げられてしまう。髪の毛の少ないドイツ人には考えられないほど短髪に刈り込まれた髪には、ギトギトとヘアクリームが塗りたくられるのだ。
トルコ人にとって、見た目による男女の差はとても大切で、比較的その傾向をもつ日本人も顔負けである。女性はセクシーに着飾るか、イスラム教徒らしくブカブカのスモッグを被って歩いている。男性陣は、せっせとジムに通い、男の理想とする筋肉体型を保っている。時には驚くほど官能的な香水をプンプンさせ、フェロモンを惜しげもなく振り撒いている。白人社会で生まれ育った第2、3世代においてもその傾向は顕著で、もっさりしたドイツ人に見慣れた私は、おしゃれな彼らに圧倒されるものだ。
おしゃれななまり
クロイツベルク地区では、ドイツ人とトルコ人の交流に力を入れていて、義務教育の枠内で、第二外国語としてトルコ語の選択を許可している。私が日本語を教えているドイツ人の男の子達も、トルコ語こそ習ってはいないものの、トルコ語の単語を幾つか習得して、会話の中にドンドン取り入れている。アメリカのブラックシーンで、特別なアクセントのある英語が話されるように、トルコ人たちが話すドイツ語も、彼らの母国語のリズムが影響して独特な語感を生む。その話し方をまねるのが、近頃ドイツ人の子供の中でも、とりわけ「クール」なのだ。トルコ語の持つリズム感を真似るのは、ベルリンの子供たちにとっては、まるでヒップホップのミュージシャンになったような、おしゃれさを意味するらしい。
そこで私はふと思う。日本の中にもたくさんの非日本語を母国語とする人たちと、日常生活で触れる機会がありながらも、どうして日本語には「クール」な言語として、彼らの言葉を取り入れる流れがあまりなかったのだろう。朝鮮・韓国から移住してきた人が多い大阪においては、方言の中に幾つか単語が取り入れられているにもかかわらず、それがファッションというポップカルチャーの枠内で、認識されたことがあるだろうか。彼らはそれよりも、日本文化にあえて合わせてきた傾向があるのではないか、そしてそれを強いた社会があったのではないだろうか。
きっかけとしての大衆文化
ポップカルチャーの浅薄さに対する批判をすると切りが無いとは言いつつも、身近なレベルで文化が行き来できる領域として、その必要性は認められるべきだ。日本で近頃アジアの映画が流行ることで、何の抵抗も無くアジア諸国の俳優の魅力を受け入れることができるようになったのも、大変喜ばしい例の一つである。近代化後日本人は、一般的にアジア諸国文化への興味を持つことはおろか、エキゾチズムという一段上から見下ろす位置でしか向かい合って来なかったのではないか。そうした傾向が少しずつ近年変わりつつあるのではないか、と若い世代の流行を見ていて感じる。問題はしかし、そこでいったん取り入れた異文化からの影響を、どのように自文化のなかに浸透させ、定着させるのかということだ。
ドイツのトルコ人たちが、ドイツ国民としての保障と認知を受けるにはまだまだ時間がかかる。しかしながら、彼らの言語センスが「クール」とされる新しい風潮は、これからの世代に、新鮮な空気をもたらすのではないか、と期待させる。
昨日夜遅い電車の中で、トルコ人とドイツ人の若者が楽しそうに話していた、一人のドイツ人少年がトルコ人の少年に笑いかける、「お前は本当に馬鹿なトルコ野郎だよ。」言われた相手も笑って言い返す。困難な文化の国境を、冗談という日常レベルで、平気で乗り越えてしまう彼らの心に、本当の無境界が生まれることを願ってやまない。
ドイツの裸事情II. 原始への帰還とテクノ・クラブ
ベルリンのオルタナティブ映画館『アルセナル』
"ドイツ・ベルリンにおけるスクワット"(1)
「おつまみ事情東西」
「ドイツ裸事情FKK対日本混浴(上)」
「ベルリン中近東事情 ケバップ対シュヴァルマ」 (上)
「カステラ一本勝負 南蛮人対倭人」
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