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荘厳なピラミッドやマヤ文字で知られるマヤ文明が栄えたグアテマラ。この地でかつて古代マヤの人々が食料としていたラモンの木の実“マヤナッツ”が注目されている。グアテマラの森を守るために、マヤナッツを日本に広めようと奔走しているのがグアテマヤ代表の大田美保さんだ。
森が燃えている
大田さんは1991年からグアテマラと日本とを行き来してきた。2000年代初頭、久々にグアテマラを訪れ、自動車で北部を旅行していたとき、道路から見える熱帯雨林の至るところで火の手が挙がっているのを目撃した。恐ろしさと悲しさで胸がいっぱいになってしまった。
ラテンアメリカ諸国の中でも、グアテマラは森林破壊が急速に進んでいる国のひとつだ。1990年から2005年の間で、17%の森林が失われた。森林破壊の要因には違法伐採、金鉱山開発、牧場開発などがある。(関連サイトを参照)
大田さんが見たのは、更地にして牧場を造成するために森が燃やされる場面だった。熱帯雨林では有機物の分解が早く土壌が薄いため、牧場にすれば数年で草が生えなくなってしまう。結果、牧場は使い捨てにされ、更に森が開発されていく。
森を守るために自分に何が出来るのか?大田さんはまず、自分の国の人々にこの問題を知ってもらおうと、帰国後、グアテマラの森について講演をしたり、“Noハンバーガー”Tシャツを作って販売したりといった活動を始めた。
中南米の熱帯雨林を切り開いて作られた牧場の牛肉は、ハンバーガー用の安価な牛肉等に使用されてきた。グアテマラの牧場と日本のファストフードで使用される牛肉が直接つながるわけではないが、大量生産大量消費のシステムの中で暮らす日本人に、安いものを大量に消費する生活がもたらす問題を知ってもらいたかったからだ。
しかし日本の消費者への啓蒙活動で、直接森を守れるわけではない。大田さんは森を守ることで森に住む人々が暮らしていけるようにしたいと考えていた。
グアテマラ北部の熱帯雨林の生育する地域に住む人々は、多くが別の地域から入植してきた農民で、貧困に喘いでいる。この地域は元々人口が希薄で、政策的に入植が進められた。そのため、土地の所有権については制度が曖昧な部分があり、農地周辺の森も含め、開拓した農民の土地となっていた。
もちろん入植者の伐採による森林破壊もあるが、大田さんが特に問題視しているのは、森林へのインパクトが大きい牧場などの大規模開発だ。牧場開発で利益を得るのは必ずしも地域住民ではない。「牧場開発で利益を得るのは、別の場所にいる企業や大地主なんです。たとえ地元の人を牧場で雇用するとしても必要な人数はほんのわずかです」と大田さんは言う。それでも農民たちは貧困のため、森を含めて、土地を牧場主に売ってしまうこともある。
古代マヤ人が食べたマヤナッツ
そんな折、彼女は友人から、古代マヤ人が食べていたという木の実のことを聞いた。これがラモンの実“マヤナッツ”だ。ラモンはかつて、中米全域の熱帯雨林に生育していた木だ。
 マヤナッツ  ラモンの木
非常に栄養価が高く、一本の木からたくさんの実がとれるという。彼女が滞在しているエル・レマテ村は、グアテマラ北部のペテン県にある熱帯雨林の生育する地域だ。マヤナッツがあれば、地元の人たちの仕事が出来るのではないか?森を切らなくても彼らが暮らしていけるのではないか?そんな思いが頭をよぎった。
だが、現在マヤナッツは食用にはされなくなっており、生産・加工している人など誰もいない。そんな中で日本人の彼女が一人でマヤナッツを加工するところから始めるのは至難の技に思えた。しかし思わぬ巡り合わせで、大田さんの思いつきは現実になる。
偶然にもエル・レマテの隣村でマヤナッツを加工しているグループがいたのだ。大田さんは矢も盾もたまらず、そのグループに会いに行った。
彼女達の名前はAliments Nutri-Naturales。「Equilibrium Fund(均衡基金)」という米国のNGOが支援して立ち上げたという現地女性のグループだ。
 エル・レマテ村
Alimient Nuturi Naturalesのマヤナッツプログラムは女性に焦点を当て、マヤナッツの栄養価、加工、マーケティングなどについて教育を行う。この地方に住む女性たちには、殆ど就労の機会がなかったのだが、マヤナッツの加工により、何人かの女性が仕事を得られるようになった。マヤナッツの栄養価を知った女性たちは更に、それを植林することにも興味を持つようになる。貧困対策が森林保全にもつながっている。これこそ大田さんの求めていた活動だった。
Aliments Nutri-Naturalesは、当時ちょうど活動を始めた時期で、マヤナッツの販売先を探していた。大田さんはマヤナッツを日本に広め、販売することを決めた。
森を守るマヤナッツ
こうして大田さんはこの新しい食べ物がどんなに栄養豊富なのか、そしてどうして森を守ってくれるのか、各地でマヤナッツトークを繰り広げ、マヤナッツを普及することに邁進するようになった。
なぜマヤナッツで森が守れるのか?講演でもよく聞かれる質問だ。
ラモンは熱帯雨林の中に自生する木だ。村人達は誰でも森へ行ってナッツを拾い、加工場でそれを換金することが出来る。マヤナッツの生育するグアテマラ北部に居住する人々の多くは、元々その地に暮らしていた先住民ではなく(※1)、多くが移住してきた混血の人々だ。森と共存する暮らしをしてきたわけでもない。
 工場
森に価値があると思わない人々にとって、森は単なる木の集まりに過ぎず、彼らは森がなくなることに抵抗を感じないだろう。しかし森で育つ木が、栄養豊かで収入にもなる果実を生み出すことを知った人達であれば、森の価値を認識するのではないだろうか。大田さんは、マヤナッツが人々に森の価値を気付かせ、切り離されてしまった森と人の暮らしとを結びつけてくれると考えている。
※1 グアテマラの先住民は人口の4~6割とも言われ、中西部の山岳地帯では多くのマヤ系先住民が伝統的な暮らしを営んでいるが、現在も彼らへの根強い差別は続いている。96年まで30年以上続いた内戦では、20万人以上に及ぶ虐殺の犠牲者の多くが先住民だった。
マヤナッツの希望
マヤナッツは栄養豊富な健康食品だ。しかし、これまで全く日本には知られていなかった新しい食材。既存の食品をフェアトレードで仕入れて販売するだけでも大変なことだが、マヤナッツの場合は、まずその存在を知ってもらうことから始めなければならない。
ナッツと言ってもカシューナッツやピーナッツのように、そのまま齧るものではない。新鮮なものは加熱調理して食べることも出来るが、日本に輸入するものは全て焙煎し、製粉した製品だ。焙煎の仕方によって、マヤナッツパウダー、マヤナッツコーヒーの2種類があるが、まずどうやって使えば良いのか、日本の人達の好みに合うようなレシピから考えなければならなかった。
レシピ作り、広報、販売、最初はたった一人、手探りで始めた事業だったが、彼女の熱意に引かれた多くの人達がマヤナッツの普及に協力し、マヤナッツを使ったお菓子、パンなど様々なレシピも出来てきた。現在は少しずつマヤナッツの存在が知られるようになり、取り扱う店舗も増えてきている。東京、神奈川、札幌、大阪、福岡など、全国のカフェやフェアトレード店などでマヤナッツやマヤナッツ入りのメニューが販売されている。
 大田美保さん
最初はAlimient Nuturi Naturalesの活動に関心を持っていなかった地域の人達も、マヤナッツに注目するようになった。2006年現在でこの取り組みに21のコミュニティから約600家族が参加し、マヤナッツから年間200ドルの収入を得ている(この地域の平均年収は700ドル)。マヤナッツの国際的な認知度も次第に高まり、貧困や環境に関わる数々の賞や助成金も得るようになった。
大田さんは言う「森の女性たちはマヤナッツを売ることで仕事を得られ、森の鳥達は木になったマヤナッツを食べることができ、マヤナッツを飲んだり食べたりした人は健康になります。マヤナッツはそんな幸せなサイクルを作り出してくれます。」
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