|
86年経っても「新しき村」?
3年前に「新しき村」の村内会員となった日比野英次さん(47)は、「新しき村」のホームページの中で次のように書いている。
「新しき村の魅力は自己(個人としての人間=単独者)を真に活かすことを主たる目的とする共同体という点にある。これを個と全体の関係で言えば、全体のために個があるという構造をもつのが封建主義的な「古き村」であるのに対し、「新しき村」は個を真に活かすための全体(これは後述するように単に個のために全体があるという構造ではない。その微妙な差異が問題なのだ)の実現を目指していると言えよう。」
では、「新しき村」は本当に今もユートピアとしてそこにあるのだろうか?
前出の森田さんと日比野さんにそれぞれインタビューして得た回答と、公開されている2つのホームページをもとに、「東の村」の現状をQ&A形式に整理すると次のようになる。
―村の人口構成は?
現在、「東の村」には22人の村内会員が居住している。その内訳は、20才代は男性1人、30才代は男性2人、40才代は男性2人、50才代は男性4人、女性2人、60才代は男性7人、女性2人、70才代は男性2人、女性2人、80才代は男性4人、女性2人、90才代は男性3人、女性1人。ちなみに、「日向の村」には、50才代の男性1人、60才代の男女1人ずつ、70才代の男性1人の、計4人が居住している。
―村人になるには?
新しき村の精神に共鳴し、その実現を自らの使命とする人は誰でも「新しき村」会員(村人)になれる。国籍、性別は一切問わない。村で生活する村内会員になるためには、原則として3年間以上、村外会員として活動しなければならない。また、40才以下の年齢制限がある。しかし、これらの条件はあくまでも原則であり、実際には本人の情熱次第で、40才を超えていてもすぐに入村が許可され得る。現在、村外会員は約200人。村外会員は会費(年間6千円)を納め、自由意志により村の定例会や行事に参加できる。村内会員も村外会員も退会は自由。
創設後はじめて造られた小屋のレプリカ.今はハイキング客などの休憩所として解放している
―個人が入会するまでに所有していた財産は寄付する必要があるのか?
1918年の創立当時には、財産寄付の義務があったというが、現在はその義務なし。入村後の私有財産も認められている。
―村の経済活動(義務労働)は?
鶏卵、シイタケ、茶、米、野菜などを生産し、それらを販売している。
―25人の村人が皆働いているのか?
村の規定では、「60歳になると自由村民となり、義務労働から解放される」ことになっている。しかし、現実には60才代までは通常の義務労働をしている。70才代以上でも、美術館や炊事の手伝いなど、本人の意思により可能な範囲で働いている。働くことができないでいるのは、2人だけ。
―一日何時間くらい働くのか?
原則として朝の8時から午後5時まで。この間、正午から2時までは昼休みで、午前と午後のそれぞれに30分ほどのお茶の時間があるので、実質的な労働は約6時間。農繁期など、場合によってはより長時間労働となることもあるが、それらは強制ではない。週休一日制で、曜日は各人で異なる。
―給料などはあるのか?
村内会員には、現在一ヶ月3万5千円の「個人費」が支払われる。そのほかに、年に2回、それぞれ5万円の特別個人費が支給される。これは義務労働をしていない村内会員にも支給される。ただし、国民年金は全額を村に納入することになっている。
―それで生活はできるのか?
個人費は各人が自由に使えるお小遣いのようなもの。住居は貸与、食事は一日3食支給され、光熱費、学費(公立高校まで)、医療費、保険、年金などの一切を村が納めてくれるので、生活は充分になりたつ。
―村の収支はだいじょうぶなのか?
近年、年間収支ではマイナスが続いている。しかし、1970年代には村内会員が60人を超え、5万羽の鶏を飼育し、年間の農業収入が2億円を超えていた時期があり、当時の蓄えを切り崩している状態にある。まだ多少の余裕はあるものの、このままの状態が続くこと蓄えも枯渇してしまうので、今見直しを進めている最中だ。
 [村の売店では滋養豊富な赤卵が人気]
―仕事の分担はどうやって決めるのか?
話し合いにより決める。現状では、だいたいが入村の際に村のニーズにあわせて任務についてもらっている。ただし、状況により配置変えもある。
―生産性の個人差が問題になることはないのか?
現在の村の中には、それを問題として敢えて取り上げる人はいない。
―村外で働くのはダメか?
村での日々の労働は義務労働と呼ばれて、これをせずして、村外で働くことはできない。しかし、この義務労働を果たした上でなら、村外で働いたり、副業をしてお金を得たりすることは許されている。
―住居は一世帯に一軒与えられるのか?
独身者用の寮が男女別にあるが、現在ある一戸建て住宅の数よりも村の世帯数が少ないため、独身者も一軒家に住んでいる。
―住居の中は、村の外の一般的な家と同じか?
基本的には同じ。電気も水道もあり、テレビ、ラジオ、電子レンジなどの生活家電も個人的に揃えられる。衛星放送の受信機、電話、パソコンなどを所有している人もいて、少数ながら携帯電話を持っている人もいる。ただし、こたつ・ストーブ(灯油も)・洗濯機など、日常生活の上で誰もが使う必要のあるものは村が準備する。
日常の生活で一般と大きく異なるのは、食事とお風呂だ。3食賄い付で、決まった時間に共同の食堂に行けば食事をとることができ、1人で食べたい場合には、自分の家へ持ち帰って食べるなり自由。また、風呂は各住居に設置されていない。共同の風呂場があり、そこで毎日入浴できる。
―住居は全体に古そうだが、トイレは水洗か?
食堂兼公会堂にあるトイレは水洗。しかし、住居にあるのは汲み取り式。
―車を所有している人もいるのか?
所有している人もいるし、また村所有の車もある。
―自由に村の外に出ていいのか? 飲みに行ったり、映画を観たり、買い物をしたりできるのか?
一般と同じように自由に行っている。
―部外者を泊めたり、外泊することは自由か?
原則としては、村外会員(または村内会員の家族)でないと泊まることはできないことになっている。
―村内会員がいきなりいなくなることはないのか?
たまにはある。この村の体質に馴染まなかった結果なので、探すことはしない。
―村内で犯罪が起こったり、警察沙汰になることはないのか?
部外者による盗難や、村内のけんか沙汰は多少あった。村内の幼稚園が放火されたこともある。それ以上の騒動はない。

迷えるユートピア~創設86年の「新しき村」~第三回
迷えるユートピア~創設86年の「新しき村」~第一回
|