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バイオトイレ(下) 

~ 次世代屎尿リサイクル術となるか? ~

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下平真弓
day
2004-09-29
 

バイオトイレ初体験

 正直なところ、はじめに巌社長が便器に手を突っ込む様子を目の当たりにして、ギョとした。社長が、手に掴んだオガクズを目と感触と鼻で確かめた後に、それを無造作に辺りに撒き散らし、その手を蛇口で軽く洗っただけで済ませているのを見て、「なんて不衛生な」と感じていた。

 ところが、自分の手を便槽に突っ込んでみてわかった。この便槽のモノは、本当に臭くも汚くもないのだ。オガクズは見た目も感触もちょうど粗挽きコーヒーの粉のようで、便からイメージされるねっちり感はどこにもない(写真)。便槽の中に大便が入った直後に、屎尿のある部分だけをピンポイントで拾わない限り、いつどの部分を掬ってもその状態だという。やや生温かいが、鼻をぎりぎりまで近づけてみても臭いは一切なかった。


 すっかり気をよくした私は、“実践は百見に如かず”とばかりにトイレを使用してみることにした。

 ドアを開けると、同時に照明が点った。これはドアの開閉に反応する自動照明なのだという。正面を見ると、便器が二つ並んでいる。

 クンクン、と鼻を効かせながら見回す。確かに臭いは全くない。便座の隣にはペーパーホルダーが設置され、照明下の壁には鏡が装備されている。平均的なトイレよりスペースがゆったりとしていることもあり、そこでメイクを直すことも至極自然にできそうだ。曇りガラスでできた広めの窓からの自然採光も心地よい。

 いざ便座の蓋をオープン。中には、便座のすぐ下に便槽がり、黄色いオガクズがすぐそこまで(約20センチほど)迫っていて、その間に金属製のスクリューの歯が覗いている(写真4)。これならば、便器が便槽と一体になっているから、便座はともかく便器が汚れることがないから清潔だ。

 反射的に止めていた息を解放する。思い切って吸ってみても嗅覚を刺激するものはない。トイレであることを疑いたくなるほど、無臭、かつきれいだ。

 いざ使用。

 あっ! ここで大きな発見があった。便槽内のオガクズが、用便のクッションとなり、音を消してくれている。しかも、音姫が音を持って音を制しようとしているのに対して、このオガクズは音を元から吸収してくれているのだ。そこに入る姿さえ目撃されなければ、出てきて初めて「ああ、いたんだ」という感じだろう。場合によっては「ここで用便をしていますよ」と高らかに宣言しているかのように聞こえる音姫なんかより、ずっといい。

 便槽の中のオガクズは、水溶性のトイレットペーパーも分解してくれるから、遠慮なく使用済みペーパーを放り入れる。

 そして、ここが最大のポイント。便座の左脇にある「運転」ボタンを押す。スクリューが回転を始め、オガクズの間に屎尿とペーパーがゆっくりとのみ込まれてゆく。動きはかなりスローで、本当にペーパーが消えるのだろうか、と不安になる。しかし、攪拌されているオガクズの中に、過去に投入されたはずのペーパーや便の破片は確認できない。

 スクリューは2分間回転し続けた後、自動でストップ。そしてモノは発酵・分解され、消え失せてしまうのだ。私は、「汚物を残していない」と思うことで、何とも爽やかな気分でトイレを後にしたのだった。

 私が抱いていた「屎尿=汚物」の固定観念は、こうして打ち砕かれたのだった。

目的別バイオトイレあれこれ

 バイオトイレの基本構造は先に述べたが、その形や細部のしくみは、メーカーや目的に応じて多様化している。

 上で紹介したバイオラックスの場合、オガクズは製材所で出るオガクズと全く同じで、これは使用頻度にもよるが、発酵・分解を維持するためには通常、年に2~3回程度交換しなければならない。ただし、その使用済みのオガクズは、有機肥料として再利用することが可能だ。つまり、生ゴミ処理機と同様、コンポスト化している(実際、生ゴミを投入しても問題ない)。このことから、コンポスト(型)トイレと呼ばれることもある。

 一方、コンポスト型ではなく、便槽に独自に開発した交換不要のチップを入れるタイプのバイオトイレもある。北九州市にある(株)サンバイオが開発し(株)バイオセレントが販売している「介護 レット」などの製品がそれで、この場合には一年間で減滅するチップ10~20%分を追加することになる。

 また、介護用、ペット用、家畜用などがあるほか、ソーラーパネルを設けて太陽光による電気で稼動するタイプや、ペダルを踏んで攪拌するタイプなどもすでに製品化されている。

 さらに、バイオトイレでありながらも、個別浄化槽により使用後に水洗可能なタイプや、ウオッシュレットなども装備された、従来の水洗トイレと比べてほとんど違和感のないものもある。

メリットとデメリット

 水要らずなのだから、下水道が要らず、ひいては下水道工事や下水道管理も不必要。汲み取り不要で、臭いもなく、最終的には肥料が得られる。環境問題からしても実に有効な、一見マジックボックスのようなトイレであるにも関わらず、日本ではいまひとつ普及が遅れている。

 新宿区役所の土木課は、「四ッ谷のうんどう広場の場合は下水道が引けないので仕方なくで、今のところ区内で唯一」ということだったし、都内に数ある代理店の中でも老舗のひとつ東京サンツールの巌社長も、「この五年間での販売総数はまだ40台に満たない」という。

 その背景にはさまざまな理由があるが、最大の理由は前述のような「イメージ」もさることながら、「法律」と「価格」にあるようだ。

 日本では建築基準法により、トイレは「下水道区域内のトイレは水洗便所に限る」と定められ、実質的には「水洗トイレ」と「汲み取り式トイレ」しか認められていない。つまり、既に下水道が整備されている区域において、環境問題などの理由で水洗トイレからバイオトイレに変更することも、また下水道未整備地域で、汲み取り式からバイオトイレに変えることは法律違反になってしまうのだ。

 メーカー側では、国土交通省に要望書を提出するなどして法律改正のための運動を行っているが、今のところその動きはないという。

 ちなみに、四ッ谷の「うんどう広場」の場合は、あくまでも「仮設トイレ」としての設置だったため、法律違反にはならないのだという。同様に、工事現場、山岳地、イベント会場、災害時用トイレなどとしての需要は着実に伸ばしてきている。

 法律の規制が少なからず需要の可能性を潰し、結果として価格がなかなか下がらない。同時に普及の遅れが、製品改良の遅れをも生んでいるようだ。

 四ッ谷の「うんどう広場」にある仮設用バイオラックス(一日の使用目安が50~60回)が一台160万円で、介護用では上述の「介護 レット」が一台約37万円と、決して安くはない。加えて、水は不要でも、攪拌や温度維持のための電力は必要で、「うんどう広場」のトイレの場合で一ヶ月約2,000円ほどの電気代がかかる。場合によっては、水洗トイレよりも維持コストが嵩むことになる。

 またある業界関係者は、「できたコンポストは成分が濃いため、そのまま肥料として使うには無理があります」と指摘した。

バイオトイレという選択肢

 かつて、貴重な肥料という「商品」として売買されていた屎尿は、いつの間にか「臭くて汚いモノ」となっていた。しかし、よーく考えてみれば、屎尿そのものの価値が失われたわけではないのだ。それを扱うわれわれの生活環境が変化したに過ぎない。屎尿を売買していた時代に戻ることは不可能だが、現在ある当たり前とされる環境を見直すことは可能だ。

 日本は他の先進国と比較して、下水道が整備されていない地域が多い。その一方で、早期に整備された地域では、下水道パイプの劣化が深刻化してきているとも言われる。そんな中、「トイレは汲み取り式から水洗式へ」というフローしか選択できないというのは、あまりに狭量ではないか?

 環境問題が叫ばれる今日、バイオトイレの有用性は注目に値する。次世代トイレとしてのさらなる可能性を探るためにも、日本の行政は「仕方なく」ではなく、積極的に目を向けてみるべきだろう。(了)


バイオトイレ(上)

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