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オーストラリアのコハウジング―『 ピナカリ 』

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飯野陽子 オーストラリア
day
2004-10-31
 

 パースの南にある港町フリーマントルの隣、ハミルトン・ヒルに『ピナカリ』というコハウジング・コミュニティーがある。コハウジングはデンマークで1960年代に「現代の村作り」というコンセプトでスタートし、その後スカンジナビア諸国やオランダへ、そして80年代にはアメリカ、カナダへと広まっていった。個人の自由やプライバシーを損なうことなく、コミュニティーで暮らすというメリットを生かした生活環境作りを、個人が集まって自ら実現しようという試みである。


 環境や社会的な影響を無視して拡大や成長にばかり目を向けてきた先進国において、本当に豊かな暮らしとは何かを見直し、環境に配慮した持続可能なライフスタイルを模索、実践していこうとする動きが根底にある。

 さらに、個人のプライバシーや選択の自由が優先されてきた現代社会におけるコミュニティー感覚の喪失、個人の孤立感といった負の部分への反動として、コミュニティーの再生や新しい共同体作りといった声が聞かれるようになった。

 また最近では少子高齢化による家族構成の変化や人々の生活の多様なニーズに対応する選択肢のひとつとして、コハウジングのコンセプトが注目されている。

 コハウジング・コミュニティーは6世帯というものから80~100世帯と大規模なものまで(平均的には20~40世帯)、それぞれにユニークなコミュニティーであるというが、共通点として(1) 開発計画や住居の設計、デザインに至るまでメンバー自らが進めていく(2) 共同エリアを持ち、その設計・文化面で日常的に人々の交流を持てるような居住環境作りを推進 (3)それぞれのビジョンやニーズに合わせ、住人の意思決定による運営、という点が挙げられる。

 コハウジングは、地域的な基盤を持たず、ただ共通のビジョンを持つ人たちが、そのビジョンを実現するために後から地域的ミュニティーを作ることが特徴である。そのためにインテンショナル・コミュニティー (intentional community)と呼ばれることもある。

・・・


 ピナカリはそのメンバーのニーズに応え、オーストラリアで初めて州の公共住宅機構が低所得者向けに提供している公共賃貸住宅と、個人の私有住宅とが共存する形を実現したコハウジング・コミュニティーである。

 ピナカリのメンバーのうち、低所得者は公共住宅に住み、高所得者は私有住宅に暮らす(注)。3000平方メートルの敷地内に8棟の公共集合住宅と4棟の私有住宅で構成され、 大人17人、7才から17才までの子供15人の12世帯が住んでいる。


 公共賃貸住宅のひとつに住むロビンさんのお宅を拝見させてもらった。オーストラリアのスタンダードから言って決して大きいとは言えないが、娘さんと二人暮らしには十分なサイズで、とても広々と感じられる。もちろんキッチンもあるし、小さな庭もあり、普通の家と何ら変わりはない。

 一歩外に出ると、共有スペースである中庭やパーマカルチャーを基本とした野菜畑があり、キッチン、食卓テーブル、リビング付きのコモンハウスへと続いている。コモンハウスはコハウジング・コミュニティーの中心的な存在で、隔週毎のミーティングや週2回は当番制で調理、夕食を共にする場所である。

 外には焚火を囲む野外エリアもある。個々の駐車場はなく、コミュニティーの外に車をおくことで、車をシェアすることを促している。個人の自由やプライバシーの必要性を尊重しつつ、共有スペースを持ち、生活の一部をシェアすることを原則としている。

 ピナカリの始まりは、湾岸戦争の反対運動に関わっていたときに知り合った人たちが、定期的に集まって夕食を共にし、そこで新しいコミュニティーの形を語り合ったことだったという。1991年にピナカリ・コミュニティーを発足した当初のメンバーの多くは、小さな子供のいる共働き又は片親家庭であった。子供を育てるのに適した安全で協力的なコミュニティーに住むことを強く望んでいた。

 開発の段階においては設計やデザインに至るまで細部によるメンバーの間での話合い、さらにはステイク・ホルダーである州の公共住宅機構を始め、コックバーン市、近隣の住民との協議の連続であったという。

 シングルマザーなど低所得者たちのために、土地の有効利用やシンプルなデザインを心がけ、出来るだけ安い資材を使うなどしてコストを下げるという現実問題、また環境を配慮した資材を使うことやパッシブ・ソーラーシステムの設置など資源の効率性、さらに重度の障害者も生活ができる住居・生活環境という理想を実現していくには、実に数多くのハードルを越えていかなければならなかった。

 ピナカリ発足から実際に住み始めるまで8年半の月日が費されたが、そのプロセスの中でメンバーたちはビジョンを明確にし、確実にコミュニティーのつながりを強めていった。


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オーストラリアのコミュニティバンク 

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