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アメリカ幼児教育の裏表

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修行麻希
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2003-10-10
 

 日本ではまず有り得ない事がもう1つ。チャイルドケアに勤めるスタッフの大多数を大学生が占めているのである。私の勤めたチャイルドケアでは、1クラスにつき必ず3~5人のスタッフが配置される事が規定により定められてあるのだが、そのうち正規資格を持つ教師は1人だけ。その他2~4人は、全て資格を持たない学生なのである。つまり、年齢別に分けられた6クラスを指導するスタッフは、園長・副園長を除き、正規職員6人と、学生スタッフ約80人から成り立っているのだ。

 そして、、チャイルドケアで働く学生スタッフの大半が教育学部に所属する。つまり、学生スタッフの大方が卒業後何らかの形で教育系の職業に就く事を望んでいるのである。これもやはり、学生に専攻科目と関連した仕事を実際に経験する機会を与えるアメリカの大学ならでは。

 この国の企業が学生に強く求めるのが、学生時代にどれだけ就職に役立つような仕事または研究に従事したか、という事である。アメリカのインターンシップ制度が良い例である。日本では、特に文系就職の場合、大学時代の専攻科目と就職後の職種が全く異なるケースは日常茶飯事であるが、アメリカの企業は学生時代の専攻科目と職種の関連性をより重要視する。チャイルドケアが、教育系の仕事に就く事を夢見る学生に、就職活動の際に利点となる職歴を与えるのも、アメリカ的教育論の長所であろう。

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 社会と学校制度が一体となってチャイルドケア政策に取り組む例も多々ある。その1つが、ティーンエージャーの出産・育児の支援である。現代アメリカでは若年層、特に十代の妊娠・出産が大きな社会問題になっている。この問題に取り組む姿勢で、チャイルドケアでは妊娠した中学生・高校生を見学者として1週間ほど受け入れ、実際に赤ちゃんと触れ合う機会を与えている。このトレーニング制度はチャイルドケアと市、州政府が合同で取り組んでいるもの。出産を控えた中学生・高校生が、実際チャイルドケアに預けられている乳児の世話をする事で、産まれてくる赤ちゃんに対する不安を和らげ、育児に慣れ親しんでもらおうという試みである。

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 しかしアメリカの幼児教育制度も完璧な訳では無い。ここ数年アメリカ全土で大きな問題になっているのが、市や州の予算大幅削減である。リンカーン市内の大学側はこれに対処する為、授業料を毎年増加、数々の奨学金プログラムを打ち切り、受講生の少ない外国語の授業の廃止、等々の大胆な手段を取った。

 この予算削減の余波を特に厳しく受けたのは、シングルマザーや大学に在籍する母親達である。今年7月から、貧困階層に与えられる家族手当(政府補助金)が削減され、数多くのシングルマザーが家族手当をもらえない状況に陥った。これまでは、1世帯(家族4人以上)の年収が33,480ドル以下の場合、政府から家族手当が支給されてきたが、今後は年収21,180ドル以下の世帯しか寄付金を受ける事が出来なくなった。この結果として、ネブラスカ州内の1,000世帯が政府からの家族手当を打ち切られ、1,500人もの子供が手当削減の影響を受けると推定されている。

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 もう1つアメリカで大きく取り沙汰されているのが、貧困層に属する子供の教育制度の質の悪さである。世界屈指の資本主義大国であるアメリカ。国民の貧富の格差は年々広がる一方で留まる所を知らない。皮肉な事に、アメリカと聞いて誰もが『機会均等』を思い浮かべるのとは反対に、富める者と貧しき者が与えられる機会は全く異なるのが現状である。

 アメリカの公立学校の質は、その地域の経済情勢、つまりその地域に住む人々の収入レベルと強く比例する。例えば、高収入の上流・中流階級家族が集中する郊外住宅地では、住民がその地域に払う税金が高いゆえに、公立学校が得る資金も多い。これらの地域にある学校では、コンピューター、楽器等の学校施設や教育の質が非常に高く、生徒達もより多くの教育的選択肢に恵まれている。

 これとは反対に、貧困層に属する低収入の家族が集中する都市中心部やゲットー地区では、住民がその地域に払う税金が低いゆえ、公立学校が得る資金も少ない。その結果として、多くの公立学校が近代的授業や設備に欠け、生徒達が受ける教育の質も非常に悪い。

 チャイルドケアや幼稚園での教育にも地域により格差が生じるのは、言うまでも無い。郊外住宅地に住む子供は、貧困地区に住む子供に比べて近代的技術や授業に触れる機会が多い分、知識も高い。知識の高い子供はよりレベルの高い学校に入学する事ができ、より高度の教育を受け、より高収入の仕事に就くチャンスを得る。設備、施設の悪い学校に通う子供は、非行に走ったり学校を中退する確率が比較的高く、よって低収入の職に就かざるを得ず、貧困層から抜け出す事が出来ない。この悪循環が、年々拡大し続ける貧富の差の根源であると論する人が後を絶たない。

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 アメリカ政府が、今後こういった問題にどのように取り組み、共同で解決してゆくのか、多くの人が期待を持って注目している。チャイルドケアとアメリカ社会全体も、国の教育制度を改善、向上し、子供達に平等な教育を与える過程にこれからも大きな役割を担ってゆくであろう。


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