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アパートを飛び出せ! 〜パリ移民地区のアフタースクール〜

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今成彩子 フランス パリ郊外
day
2008-11-02
 

移民コミュニティーと学校教育

 現在フランスでは、毎年15万人の子どもたちが学校を辞めていくという(※1)。特に移民地域ではその率が高く、学校を辞めた子どもたちが犯罪に走るケースも少なくない。その背景には、家庭に勉強できる環境がないという事情がある、とアジャさんは指摘する。

「HLMに住む家族は、複数の子どもを持つ大家族が多く、5人や6人兄弟も珍しくありません。そのため、子どもたちが勉強したくても家に場所がないのです。そうした家庭の年長の子は、共働きの両親に代わって、弟や妹の面倒を見なくてはなりません。」

 アフタースクールは、そうした子どもたちが学校以外で唯一机に向かえる場所になっている。また、子どもたちのほとんどが、兄弟・姉妹を連れて教室にやってくるという。幼い弟や妹が同年代の子どもたちと学んでいる間に、年長の子どもたちも自分の勉強に集中できる、という仕組みだ。また、家と違ってここは「勉強するためのスペース」なので、子どもたちもその気で来るという。

「家だと、誰かがテレビを見ていたら気になっちゃう。ここはテレビがないから、すごく早くできるよ。」

 7歳のジョシュエが嬉しそうに言う。学校に入って今年で2年目、アフタースクールが開く日は毎日欠かさず通っているという。

友達のイッサ(左)とおどけるジョシュエ(右)


 さらに、移民家庭が共通に抱える大きな問題のひとつとして、言葉の問題がある。

「子どもの勉強を見てあげたくても、親のフランス語の方がおぼつかないという家庭がほとんどです。」

 移民家庭にとって、言葉の壁は避けて通れない。特に、学校はその壁を最も強く感じる場所だという。親が移民一世の場合、仕事に手一杯で、フランス語を学ぶ機会や時間を得られない場合が多く、自然と家庭での共通語は出身地域のものになる。
 また、親自身がフランス語に自信がないため、教師との意思疎通がままならならず、親自身が学校から疎遠になるケースも少なくないそうだ。子どもは、そうした親の劣等感や、学校側の見下した態度を肌で感じる。

 一方、子どもたちも、慣れない言葉で学校の授業についていくのは容易ではない。Afev(※2)が、CP学年(日本の小学校1年生にあたる)の子どもたちのうち、学力が低いと見なされた700人にインタビューしたところ、22%の子どもたちが「学校で、何を要求されているのか分からない」と回答したという。こうして徐々に、子どもの足が学校に向かなくなってしまう。アジャさんのアフタースクールは、この悪循環を断ち切る作用を生んでいるようだ。

「フランス領で育った私は、幼い頃からフランス語で教育を受けてきました。そのため、フランス語に難のある親に代わって、子どもたちの勉強を見ることができます。子どもたちが学校で習ったことを、噛み砕いて伝えるので、子どもたちも学校の授業を理解できるようになっていきます。」

 もう一つ、アジャさんが親代わりに心がけていることがある。それは、「試験の結果を子どもたちに尋ねる」ということだ。
 
「多くの親は生活に追われ、子どもに注目する余裕がありません。そうすると、彼らはみるみる意欲をなくし、そのまま学校に行かなくなることさえあります。逆に、大人が勉強の成果を認めるだけで、彼らは驚くほどやる気を出しますね。」


外の世界を知るために
 
 この日も、2人の子どもたちが学校での小テ ストに向けて、足し算の問題と格闘していた。なかなか正解が出ないので、何度も同じ問題を繰り返す。子どもたちの勉強を見る時、アジャさんの目は優しくも厳しい。アジャさんは繰り返す、勉強は大事だ、と。

「この国では、HLMで育った移民の子、というだけで既に一つの重荷を背負っていることになります。さらに、早期退学したとなれば、前途多難な人生が透けて見えるでしょう。彼らにとって、教育を受けることは将来の自分を守る盾です。」

 できるだけ多くの子に進学してほしい、と彼女は続ける。そして、一枚の写真を見せてくれた。子どもたちの集合写真だ。肌の白い子どもたちの中に、一人だけ肌の黒い女の子がいる。「これ、12歳の時のわたしです。」別の区域に住んでいたのかと問えば、そうではなかった。

「18区の住民といえば、この頃は中流階級の普通のフランス人家族がほとんどでした。移民家庭なんて数えるくらい。でも、1980年代後半から、フランス人家族が引っ越した後、移民が入れられるようになって、今では『ゲットー』なんて呼ばれている状態。フランス人と移民が自然に交われる接点がなくなっています。」

 だから、進学は大事だ、とアジャさんは強調する。

「進学すれば、子どもたちはこのHLMの小さなコミュニティーの外に出ることができます。この地区を出る機会のほとんどないあの子たちは、フランスで生まれ育ちながら、フランス人の友達が一人もいません。フランスの歴史や文化に、興味を持つこともありません。」

 そうして、「フランス」を知らないまま、移民政策のネガティブな側面ばかりを見て育った子どもたちは、フランスを嫌悪するようになる。2005年のパリ暴動事件は、そんな若者たちの、負の感情が溜まりに溜まって爆発した典型的な例だった。

「私もそうですが肌の黒い移民は、警察に職務質問されるのは日常茶飯事です。だから警察や政府に嫌気がさすこともあります。でも、対立すればするほど、移民の立場は悪くなり、移民コミュニティー間でさえ摩擦が起きるようになります。子どもたちは進学することで、初めて他の環境で育った学生たちと出会うことができます。フランス人や他コミュニティーの友達ができれば、フランスという自分が育った国に、今よりずっとポジティブな興味も抱くことができるかもしれません。」

アジャさんと生徒たち アフタースクールの教室にて


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