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紙(許可証)はもう諦めた
「スペインで発行されている月刊・日本語新聞には、わずかながら求人広告が載ってますが、どれも"居住労働許可を所有の方"というのが必須条件。就職先が見つかってから、そこを通して紙の申請をしてもらう以外すべはないのに・・・。これじゃ本末転倒というか、鶏が先か卵が先かという話ですよね」とSさん。
へたに移民を増やしたくないスペイン政府は、大手日本企業からの駐在員に対してでさえ、この居住労働許可の申請を却下することがある。仮に審査に通ったとしても通常、申請から発行までに1年以上かかる。よって企業側は、名の通った会計事務所などにかなりの金額を積んで代行してもらい、手続きがなるべくスムーズに行くよう計らうのが常だ。
何としても必要な駐在員用の許可証でさえこのありさま。即就労してもらいたい現地採用員に、そこまで金銭も時間もエネルギーも費やせない、というのが雇う側の率直な言い分のようだ。付け加えておくと、日本人の雇用に関しては100%買い手市場である。「紙はあるが、仕事がない」という人もこれまた沢山いるため、「スペイン語も英語も堪能な邦人で、PCスキルにも習熟している、XX分野の専門職経験者を求む」的な広告が圧倒的に多い。
ちなみに居住労働許可証には、「会社員用」と「自営業用」の2つがある。
「自営業用を申請することも考えましたが、これも私の場合必要書類を偽造しなければ申請できない上、審査に通るかどうかも分からない。運良く取得できたとしても、もらえる期間は1年のみ。毎月、多額の税金と3.5万円ほどの健康保険料をきっちり納めてないと、翌年更新してもらえないということで、これも別の意味で本末転倒。合法で滞在するためにそんな額を払えるほど、稼ぎはよくないんです。とてもやっていけません。私にとってベターなのは、許可証なしで働いてブラック・マネーで賃金をもらうことだ、という結論に行きついたんです。」
学生証は居住許可も兼ねているため、学業の支障にならない程度であれば就労は認められている。この2年間、Aさんは頻繁に周辺の人々に声をかけ、単発や短期のアルバイトを見つけてきた。そういったブラック・マネーでのアルバイトをいくつか掛け持ちすれば、なんとか生活していけるんだそうだ。
日本食レストランのウエイター・ウエイトレス、小さな店の販売員、ジムのインストラクター、日本語教師などは、たとえ経営者が日本人だとしても許可証の有無には眼をつむる場合が多い。有るにこしたことはないのだが、人手の確保のほうが先決とのこと。こういった職は報酬が安いとあって、人の入れ替わりが頻繁なのである。
スペイン人が経営者の場合など、従業員の10人中8人がブラック・マネーで雇われていたりする。正式に雇用すると諸手続きや福利厚生費、税金といった雇い主の負担が大きくなることが第1の理由。つい最近まで、「終身雇用」という観念すら存在してなかったことの影響も少なくないだろう。
いずれにしても、「常に行き当たりばったりで、何でもウヤムヤにするのが得意技」のスペインの人々を非常によく象徴している事実だと、私は妙に納得している。
一難去ってまた一難
どうにかこうにか「不法滞在」生活も軌道に乗ったかに思えたSさんだが、今度は住居面での問題が持ち上がった。
スペインには、日本人には馴染みの薄い「ピソ・コンパルティード」というアパート共有システムがあり、学生だけではなく社会人も含む多くの人がこのスタイルで暮らしている。
Sさんも、家賃を安くあげるため渡西後このかた共同生活をしているのだが、生活時間帯、受けてきた教育、習慣、常識まで全く違う異国籍の赤の他人が3~5人集まって1つ屋根の下に暮らすとなると・・・、これは一筋縄ではいかず、遅かれ早かれ亀裂が生じてくる。
「この2年あまりに、ピソ(アパート)を数回替わりましたが、今のピソでも同居人とぶつかることが多くて・・・。本当は1人暮らしがしたいけど、べらぼうに家賃が上がった今のマドリッド(ワンルームで8万円ほど)ではそれも無理。ならばせめて日本人と住みたくて、新たなピソ探しを始めたんです」。
が、これが難航を極めた。
部屋を次の入居者のために空けなければならない日が目前に迫っても、引っ越せるあては皆目なし。ちょうど同居人を募っている日本人もいなかった。
「結局、荷物はいくつかに分けて友人たちに預かってもらい、私は心ある知りあい夫婦宅に居候しながら、必死で物件を探しました」。
2ヶ月以上もの時間を費やしても一向に朗報に恵まれなかったのは、彼女の「不法滞在」によるところが大きい。最近のマドリッドでは、大方の家主が「給料明細」の提示を求めるが、Sさんはもちろん持っていない。
四方八方思いつく限りの手を尽くすも努力は空回りし、時間だけが過ぎていった。焦りも疲れもピークに達した頃、契約書云々の固いコト抜きで、知人所有のピソが借りられることになった。しかもリフォームしたてで、中心街に位置する。まさに、捨てる神あれば拾う神あり。ひとまず胸を撫で下ろし、現在は大急ぎで同居人をあたっているとのこと。
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