reports

MIGRANT

back
prev_btnnext_btn
title

スペインにおける日本人移民事情 -たかが紙、されど紙

日本人不法滞在者たち

leader from from
松嶋公美 スペイン、マドリッド
day
2004-08-30
 

それでも残りたい日本人不法滞在者たち

 ユーロ導入後インフレが進み物価は急上昇、治安もよくないし、人種差別だってある。日本人が働ける場も欧州先進国に比べると極端に少なく、しかも低賃金。さらに、紙がないがために住むところ1つ見つけるにも多大な労力を要す・・・と、挙げていけばキリがないほどハンデを負いつつも「それでもスペインに暮らしたい」とSさんは言う。

 「在西の日本人が口を揃えて言うように、"なんとか食べていける程度の生活でも、スペインの方が居心地がいい"というのはあります。でも、私がこの国にこだわっているのは、"こっちの方が可能性がある気がする"から」。

 折からの日本ブームが追い風となって、和紙や日本の定番色(歌舞伎劇場の引き幕"柿・黒・緑"など)を使ったSさんの作品は評判がいいそう。購入したいと言われることも度々ある。

 住まいの問題が全面解決するまでアーティスト活動は中断せざるを得ないが、今後アルバイトと制作を両立させていきたいと意気込みは満々だ。

  「アルバイトで稼ぐ、ということだけ考えるとスペインより日本の方がはるかに割りはいいですよ。でも、日本で日本人として生きていた時にはなかった"充足感"は、何にも代え難いものがあるんです。コネなし、金なし、紙なしのナイナイずくめだからこそ、自分で途を切り開いて行っているという"手応え"も大きいんだと思う。もともと苦労性なんですね。いつまでこの状態を続けられるのか、先のことは全く分からないけど、やれるところまでやってみるつもりです」。

 常に「強制送還」と背中合わせという危険を犯してまで、何かと困難が付きまとう「不法滞在」を続けたいかどうか、また、あえて続ける価値はあるのか?

 それは、各々にしか決められない、分からないことだろう。何を以って「幸せ」とするかの基準は、人の数だけ存在するのだから・・・。

 と、ここで終了のはずだったのだが、レアリゼの主宰・三沢氏から、現在東京で行われている「不法滞在者狩り」について連絡が入った。 入国管理局が、まっとうな職についている人にまで、「紙」がないという理由で手錠をかけているという。

 これには驚き、失望した。

 「何でもかんでもいきなり逮捕して、強制送還」という強硬手段に出る前に、取るべき方策があるはずだ。全ての不法移民が、国民の生活を脅している凶悪犯でもあるまいし・・・。

 そもそも、日本とて世界中に万単位の不法滞在者を輩出している国なのだということを、覚えておかなければ。

 違法で海外に居住する日本人同様、日本で「紙なし就労」している外国人も、「不法だけど、悪さは何もしていない」という意識でいるに違いない。

 日本における移民問題については、かねがね「想うところ」があったので、せっかくだから今回の記事に書き加えさせてもらうことにした。

 まず、どんなに入管や警察が頑張ったとしても、彼らを残らず追い出すことは、物理的に不可能だ。これほど自由に地球上を移動できるようになった現在、外国人の自国への出入りを完全にコントロールすることはできない。出稼ぎの場合、マフィアやそれに準ずる国際組織が裏で手引き・工作していることも多い。

 どこの国においても、政府と不法移民との知恵比べ、イタチごっこが繰り広げられていることを見ればそれは明白だろう。「民族大移動のグローバリゼーション」は、もう止められないのだ。

 また、「観光客」として入国し、いわゆる3K労働など産業構造の底辺に潜り込んでいる者や、鍼灸院など自営業を営む者は、「需要」があるからこそ労働力を「提供」できるのだということが、すっかり視野から欠落している。

 彼らはすでに、社会のある部分では「必要とされている人々」なのだ。 不法移民を宙ぶらりんな立場のまま放置し、一方で都合よく利用しようとする社会が在るからこそ、合法的に生計を立てる途がないからと犯罪に走る者が現れ、それが差別・偏見を助長し、そのことがまた・・・といった悪循環に陥っていくわけだ。

 だからこそ、少なくとも「需要」と「供給」が一致する場合には、きちんと申請させて許可を出し、税金は納めてもらう代わりに、社会保障などの権利は等しく与える、当初働ける期間は1年なら1年、規定の条件を満たしていれば更新可能・・・、といったことを法制度としてはっきり定め、実施すればいい。

  その上で、何をしているのか分からない不法滞在者や、許可のない移民を雇っている人間を摘発し厳重に処罰する、という譲歩策を講じる方がよっぽど理に適っていると思うのだが、どうだろうか?

 移民ラッシュ、カオスが急速に進むスペインでは、90年代末から 2000年初頭にかけて何度かに渡り、「調整」という名の下、政府が労働力確保のための「紙」発行を行った。これにより合法化されたのはもちろん一部の移民なのだが、スペイン政府は収益を上げ(年金・健康保険の国庫は黒字に転換、税収も増え、出生率も上昇)、国民には以前より安心感が広がった。

 この秋にはサパテロ新政権の下、家政婦や土木業に従事する「立場の弱い、紙なし就労者」をも対象に含む大規模な「調整」が、再び行われる見通しだ。これで前出のSさんも、なんとか紙が取れるだろう。

 長いあいだ"ほぼ単一民族"でやってきた島国ニッポンも、そろそろ腹を決めて正面から向き合わないといけない時期が来ている。(G8メンバーのイギリスやフランスは、100年以上前から向き合っている「対移民先進国」だ)
 警棒は「魔法の杖」じゃない。どんなに振り回してみたところで「招かれざる客」は跡形なく消えてはくれない。

 21世紀は、「いかに追放するか」ではなく「いかに共存するか」を地球規模で考える時代だと、私は思っている。


1 2 3

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr