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[人身売買]
人身売買という言葉は、米国務省が今年5月に人身売買レポートを発表して以来、マスコミでも取り上げられ、誰もが一度は耳にしていると思うが、おおまかには、人をだまし、輸送し、脅迫もしくは監禁し、性的搾取及び性暴力4 を行うことである。
彼女達は最悪の場合このケースに該当する。いやむしろ彼女達に常についてまわる問題と言っても過言ではない。その手口は実に多様だが、例えば現地でリクルーターが「日本のレストランで給仕として働かないか」と仕事を斡旋し(だまし)、日本に連れて来る。
日本に着いたら本人からパスポートを取り上げ、風俗店へ紹介し、架空の借金(500万円前後)を背負わせ、借金返済のために売春を強制させるというものだ。冒頭に挙げたフィリピン人のケースも人身売買の一例と言える。途上国の農村地帯など、情報が極端に乏しい地域の若者は、出稼ぎの話に乗りやすい。また、来日後仮に思い通りの仕事に就いたとしても、パスポートを保管している雇用者の思わくによってはいつでも搾取の対象になり得る。
人身売買レポートで、日本は「分類2」の、中でも「監視対象国」に格付けされた 5(表参照)。人身売買を取り締まる法律がなく、被害者の保護が充分に行われていない、人身売買に対する国内の需要を減らす努力をしていないと判定された結果だ。
確かに日本の人身売買に対する取り組みは他国と比べお粗末である。政府がだらしないと言ってしまえばそれまでだが、国に意見し、圧力をかけていかなければならない市民レベルでも運動の規模は小さく、公的な助成金も少ない。
国内で人身売買の問題を専門に取り扱う団体は、2003年10月に設立された人身売買禁止ネットワーク6 がある。これまで何らかの形でこの問題にかかわってきた人権擁護団体やシェルターが連携し、活動を始めたばかりだ。これまで最も被害者と接してきたシェルターでさえも、国内に3箇所しかない。
分類1にランクインしたフランスでは、大きなところでムーブマン・デュ・ニ(mouvement du nid 1901年設立)7 がフランスの主要都市32箇所に事務所兼シェルターを持ち、ベルギー、ブラジル、ポルトガル、コートジボアールにも支部を構えている。
同NGOストラスブール支部長は「人身売買は国際的組織犯罪です。彼らが世界に犯罪網を持つなら、私達も世界各地にネットワークを持って対抗するべきです。」と情熱的だ。また、批評する側の米国でも小規模でありながら3つの団体が国内で活動し、その内のCATW (coalition against trafficking in women)8 は世界にも拠点を広げ、すでに世界10カ国に支部を持つ。
[警察に求められることの限界]
もちろんNGOだけでなく、警察が動かないことには話にならない。だが、現実はそう単純ではないようだ。日本の警察官は、治安を守るのに必死になるが、DVや性暴力被害の女性の保護については消極的で、殊に外国人女性となると関心はますます薄くなる。
今日でも尚、警察は彼女達を保護するために動いてはくれない。彼女たちが被害者であってもオーバーステイを理由に入管へ送り込み、それだけで満足し、その原因を作った元締めをおおかた放置している。
人身売買の被害を認め、被害者が証言し、関与したブローカーを裁くには、「被害がある」ことを疑った捜査が必要だ。被害者の外国人を入管法に触れるオーバーステイ、パスポート偽造等の犯罪者としてにらみ、その逮捕・収容に躍起になっていては、被害は見落とされ、悪質なブローカーを裁くことはできない。彼らはまた新たな被害者を日本へ送り込むだろう。
また、被害者の側にも不法滞在から警察に対して恐怖心があったり、もしくはブローカーから「警察に言えば、国の両親を殺す」と脅迫されていたりするので、警察に対し心を開くことは難しい。仮に警察官一人一人が高い意識を持ち、彼女達に親身になって寄り添ったとしても、彼女たちがつらい過去を打ち明けるにはしばしば精神的な苦痛を伴うため、真実を聞き出すのには十分な時間とサポートが必要だ。
言語の面でも日本語ではなく、母国語でサポートしていかなければならない。その点も考えると警察官だけでどこまでやれるのか、彼らにどこまで求めていいのかは疑問だ。
4 非性産業の労働や臓器売買なども定義に含まれるが、ここでは触れないこととする。
5 国の分類方法は、2003年に米国で制定されたTVPRA(trafficking Victims Protection Reauthorization Act of 2003人身取引被害者保護再授権法)の定める最低限の基準を満たしている国を分類1、基準を満たすよう著しい努力をしている国を分類2に、基準を満たさないが何らかの努力をしている国を分類2の監視国リストに、基準を満たさず努力も不十分な国を分類3としている。分類3にランクインすると米国からの制裁対象になるという。(PDF40ページ参照)
6 JNATIP(Japan Network Against Trafficking in Persons) http://www.jnatip.org/index.html
7 売春者がいつでも売春から抜け出せる自由を提供するため、傍に寄り添い、サポートするNGO。フランス人の売春者が少数であるため、外国籍セックスワーカー、人身売買の被害者を主に対象としている。http://www.mouvementdunid.org/
8 http://www.catwinternational.org/
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